仕事で苦手な業務があると、「もっと勉強しなければ」と考える。人前で話すのが得意でなければ、話し方の本を読んだり、セミナーに行ったりする。
苦手を克服しようとするのは、悪いことではありません。できることが増えれば、仕事や生活の幅も広がります。
でも、ふと思うことはないでしょうか。得意を伸ばすより、苦手をなくすことばかり考えていないか。すべての弱点を、本当に直す必要があるのか。
なぜ、苦手なことは克服しなければいけないと思うのでしょうか。
評価されるのは、役に立つ力
仕事が速い、説明がうまい、数字に強い。役に立つ場面が分かりやすい力は、評価されやすいものです。
反対に、作業に時間がかかる、人前で話すのが苦手、という点は、直すべきところだと考えられがちです。
たとえば、会議で発言するのが苦手な人がいたとします。資料づくりは丁寧で、ミスも少ない。それでも、評価の面談では、「もっと発言できるといいね」と言われます。いちばん目立つのは、できていることではなく、足りない部分です。
また、苦手を克服した話は、「努力して乗り越えた」という、きれいな成功談になりやすいものです。逆に、「苦手なまま、別の方法でやっている」という話は、あまり注目されません。
そのため、気がつくと、「苦手を直すこと」が、いつの間にか「やるべきこと」になっていきます。苦手を直すこと自体が悪いのではなく、直すことだけが目的になってしまうと、少し苦しくなります。
役に立たないから、大きく育った木
曲がっていて、材木に使えない。そう見なされたから、切られずに大きく育った木の話があります。この話は、2300年ほど前の中国の思想家、荘子の書物に出てきます。
まっすぐで加工しやすい木は、材料として価値があります。でも、材料として価値が低い木も、生きている木として見れば、別の価値があります。大きく育って、人が休める木陰をつくることもできます。もし、この木がまっすぐで加工しやすかったら、とっくに切られていたはずです。役に立たないことが、この木を守ったのです。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、要するに、自分の力を測る物差しは、一つだけではない、ということです。苦手だからダメなのではなく、場所が合っていないだけ、ということもあります。
荘子の考え方を借りると、役に立つかどうかは、「何のために見るか」で変わります。家を建てる材料としては役に立たなくても、木陰としては役に立つのです。
「苦手だから、やらない」でいいの?
ただし、ここは荘子の話を、日常にかなり簡単に借りた話です。人間を、そのまま木に当てはめることはできませんし、「苦手だからやらない」で、すべてうまくいくわけでもありません。必要な力から逃げ続けると、あとで困ることもあります。
苦手と、うまくつきあう方法
方法は一つではありません。合いそうなものを選んでみてください。
- 本当に困っているか、確かめる。 仕事や生活で困っているなら、直す価値があります。周りができているから、という理由だけなら、なくさなくても大丈夫です。たとえば、電話が苦手でも、仕事がほとんどメールで済むなら、無理に直さなくていいのです。
- 得意な方法で補う。 話すのが苦手なら、先に文章で整理しておく。即答が難しければ、「少し考える時間をください」と伝える。文章が得意なら、先にメモを渡す手もあります。
- 苦手が目立たない場所を探す。 同じ力でも、求められる場面によって、評価は変わります。人前で話すのが苦手でも、少人数の打ち合わせなら、落ち着いて話せる人もいます。
- 重要でなければ、克服しないと決める。 時間は限られています。直すものを一つか二つに絞って、残りは「今は手をつけない」と決めます。生活に大きな支障がなく、自分も困っていないなら、それで十分です。「全部できる人」を目指さなくていい、と決めるだけでも、気持ちは軽くなります。
大切なのは、直す価値のある苦手と、直さなくてもいい苦手を、分けることです。分ける目安は、実際に困っているかどうかと、直すために時間をかける価値があるかどうかです。
自分に足りないものを探すだけでなく、すでに持っているものが生きる場所も探してみる。今、直そうとしている苦手は、本当に直すべきものでしょうか、それとも、別の場所で生きる力でしょうか。
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