なぜ、ずっと楽しい世界より、現実を選びたくなることがあるのか?

本日のモヤモヤ

仕事で疲れた夜、好きなゲームを起動する。

現実では思いどおりにいかないことも、ゲームの中ならうまくいく。気づけば、何時間も夢中になっている。画面を閉じると、またいつもの日常が戻ってくる。

そんなとき、ふと思います。ゲームのように好きな体験を味わえて、嫌なことも起こらない世界に、ずっといられるなら、現実より幸せなのではないか。

けれど、不思議なことに、「それでも現実のほうがいい」と感じる人もいます。

なぜ、ずっと楽しい世界より、現実を選びたくなることがあるのでしょうか。

楽しい世界にずっといられる装置があったら

こんな装置を想像してください。

  • 入ると、現実と区別できないほどリアルな体験ができる
  • 行きたい場所へ行き、好きな人と過ごし、何かを成し遂げる喜びも感じられる
  • 嫌なことは、何も起こらない
  • ただし、入ったら、現実には戻れない

あなたなら、入りますか?

一度入ったら、いま身近にいる人たちとは、もう会えません。それでも、入りたいでしょうか。

この問いを、思考実験にまとめた哲学者がいます。20世紀のアメリカの哲学者、ロバート・ノージックです。この装置は、「経験機械」と呼ばれています。ノージックは、この例で、人が大切にしているものは、「気分のよさ」だけでは説明できない、と示そうとしました。

いい気分と、本当にやったことは、別のこと

装置の中では、成功した気分を味わえます。でも、実際に努力して、何かを成し遂げたわけではありません。試験に合格した気分は味わえても、本当に勉強して合格したわけではないのです。旅行も同じです。動画を見て、行った気分になるのと、実際に歩いて、迷って、疲れて、おいしいものを食べるのとでは、同じ気分のよさでも、残るものが違います。

愛されている気分になれても、現実の相手と、時間をかけて関係を築いているわけではありません。「いいね」をたくさんもらった気分と、本当に誰かに必要とされた実感も、似ているようで、別のものです。

こう考えると、装置に入るのを、ためらう人がいるのも分かります。ためらうのは、「いい気分」だけでは、何かが足りないと感じるからです。

少し難しく聞こえるかもしれませんが、要するに、人が求めているのは、いい気分だけではないのかもしれない、ということです。「実際にやった」「本当に会った」という手ごたえにも、価値を感じているのです。

ノージックの考え方を借りると、ゲームや動画のあとに、「楽しかったのに、何か物足りない」と感じるのは、気分は満たされても、現実の手ごたえが、まだ足りないからだといえます。

「装置に入らないのが正解」ではない

ただし、「装置に入らないのが正解」という話ではありません。答えは人によって違いますし、仮想空間での経験や交流にも、本物の意味があります。遠くにいる友達と、ゲームの中で過ごす時間が、大切な支えになっている人もいます。

ここでは、ノージックの問いを、日常に借りています。疲れた日に、画面の中の世界で休むことも、大事な時間です。画面の中の世界と現実は、どちらかを選ぶものではなく、行き来するものでもあります。

心地よさと、うまくつきあう方法

方法は一つではありません。合いそうなものを選んでみてください。

  • 何を求めているのか、考える。 動画を見たいのは、笑いたいからか、疲れを忘れたいからか。目的が分かると、楽しみ方を選びやすくなります。ただ疲れを取りたいだけなら、思いきりゲームを楽しんで大丈夫です。
  • 現実で、一つだけ動いてみる。 旅行動画を見て満足する日があってもいいのです。本当に行きたい場所なら、行き方を調べてみます。たとえば、動画で見た料理を、週末に一度だけ作ってみるのも、同じです。
  • 体験の意味を、楽しさだけで決めない。 うまくいかなかった挑戦や、誰かと過ごした何気ない時間にも、気分のよさだけでは測れない価値があります。
  • 重要でなければ、最高の体験を追わないと決める。 毎回いちばん楽しいものを探さなくていいのです。何となく過ごす時間があっても、構いません。

疲れた日に、ゲームや動画の世界に逃げ込むことは、悪いことではありません。休むための楽しみも、生活には必要です。

ただ、「楽しいはずなのに、何か物足りない」と感じたら、自分に聞いてみてください。いま求めているのは、いい気分でしょうか。それとも、現実の中で何かを経験することでしょうか。

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