昔の日記や、SNSの古い投稿を読み返して、「なんでこんなことを書いたんだろう」と思ったことはありませんか。
- 当時は本気で信じていたのに、今読むと、考えが浅く感じる
- 昔のメッセージを見て、少し顔が熱くなる
- 自分で書いたはずなのに、読んでいて落ち着かない
昔の自分も、今の自分も、同じ人間のはずです。それなのに、なぜ、昔の自分の発言を読み返すと、恥ずかしくなるのでしょうか。
変わったのに、「同じ自分」のままなのはなぜ?
数年前と今では、好きなものも、大切にしていることも、人との接し方も、変わっているかもしれません。
それでも、自分が別の人間になったとは思いません。変わったのに、同じ自分。ここが少し不思議なところです。
たとえば、10年前の日記に、「絶対にこの仕事を一生続ける」と力強く書いてあったとします。今は別の道を歩いているので、読み返すと「勢いだけで書いたな」と苦笑いしてしまう。でも同時に、「あのころは、それだけ本気だったんだ」とも思います。
ここで大事なのは、これが知らない人の日記なら、恥ずかしくならないことです。「ふうん」で終わります。自分の文章だと思うからこそ、顔が熱くなるのです。
SNSなら、昔の自分の投稿に、強い言い方で誰かに言い返しているものが残っているかもしれません。今なら、もう少しやわらかく書くはずです。恥ずかしいと感じるのは、悪いことではありません。当時は知らなかったことを知り、別の見方ができるようになったから、違和感が出るのです。
自分の人生を、一つの物語として見ている
この「変わったのに、同じ自分」という不思議さに、物語という切り口から答えようとした哲学者がいます。20世紀のフランスの哲学者、ポール・リクールです。
リクールは、人は自分の人生を、一つの物語として理解している、と考えました。たとえば、「あの失敗があったから、今は慎重になった」「あの出会いが、考え方を変えた」。私たちは、バラバラの出来事をつなげて、「自分はこういう人間だ」と理解しています。
しかも、同じ出来事でも、つなげ方を変えると、別の意味に見えてきます。たとえば、昔の失敗も、「情けない過去」ではなく、「今につながる最初の一歩」として、語り直せます。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、要するに、自分は最初から完成しているものではなく、振り返るたびに、少しずつ書き直されていくもの、ということです。
リクールの考え方を借りると、昔の発言が恥ずかしいのは、今の自分が、物語の続きを書いているからだといえます。続きが進むほど、前のほうの章が、少し幼く見えるのです。
「昔の自分」は、間違いばかりではない
ただし、ここはリクールの考え方を、日常にかなり簡単に借りた話です。今の自分がいつも正しいとは限らず、昔の自分には、今は忘れてしまった素直さや、まっすぐな感覚があったかもしれません。また、振り返るだけで後悔が消えるわけではなく、誰かを傷つけたなら、謝ることや、行動を直すことも必要です。
昔の自分と、うまくつきあう方法
方法は一つではありません。合いそうなものを選んでみてください。
- 当時の事情を思い出す。 「あのころの自分は、何を知らなくて、何を大切にしていたんだろう」と聞いてみます。事情が分かると、「そう書くしかなかったな」と思えることがあります。
- 変わった部分を言葉にする。 「昔は嫌われるのが怖かったけれど、今は意見が違っても話せる」のように、具体的に書き出します。恥ずかしさが、成長のあとに見えてきます。
- 今も残っているものを探す。 考え方は変わっても、誰かを大切にしたい気持ちや、好奇心は、続いているかもしれません。慎重に言葉を選ぶ癖や、誰かの役に立ちたいという思いが、昔の文章にも出ていることがあります。
- 重要でなければ、振り返らないと決める。 思い出したくないことを、無理に掘り返さなくて大丈夫です。すべての経験を、成長の物語にしなくていいのです。そっとしておくことも、立派なつきあい方です。
恥ずかしさは、今の自分が少し変わった証拠です。大切なのは、昔と今のどちらかを正解にすることではなく、変わった部分と、残っている部分の両方を見つけることです。昔の自分は、無意味になったわけではありません。今の自分を理解するための手がかりとして、ちゃんと残っています。
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