そうして話しているうちに、「あ、たぶん自分はこうしたいんだ」と、急に気づくことがあります。
相手から答えをもらったわけではありません。自分がずっと話していただけなのに、頭の中が少し整理されている。話し終わってから、「聞いてくれてありがとう。なんだか分かった気がする」と言った経験は、ないでしょうか。
なぜ、人に話すだけで、自分の考えが見えてくるのでしょうか。
話す前は、考えが混ざっている
悩んでいるとき、頭の中にはいろいろなものが入っています。
- 仕事は嫌いじゃない
- でも最近疲れる
- 転職も怖い
- このまま続けるのも不安
全部本当だから、余計に決められません。頭の中で、全部が一度に聞こえている状態です。ひとりで考えていると、同じ心配がぐるぐる回りやすいのも、そのためです。
ところが、誰かに「何が一番嫌なの?」「本当はどうしたいの?」と聞かれると、一つずつ言葉にすることになります。話は、一度に一つしかできないからです。すると、一つの塊だった悩みが、少しずつ分かれていきます。声に出した言葉は、自分の外に出るので、少し離れた場所から眺められるようになります。
相談相手は、答えを知らなくていい
良い相談相手は、必ずしも正解を知っている人ではありません。聞く側も、「正しい答えを返さなきゃ」と身構えなくて大丈夫です。
「それなら転職したほうがいいよ」と決めてくれる人より、「何が一番引っかかっているの?」と聞いてくれる人のほうが、自分で考えやすいことがあります。決めてもらった答えは、「でも、ちょっと違うかも」と引っかかることもあるからです。
話している途中で、「自分は転職したいというより、今の働き方を変えたいんだ」と気づく。答えをもらったのではなく、言葉にする途中で、答えの形が見えてきたわけです。
質問を重ねて、相手に考えさせた哲学者
答えを教えるのではなく、質問を重ねて、相手に自分で考えさせる。そんなやり方で人と話した哲学者がいます。約2400年前の古代ギリシャの哲学者、ソクラテスです。
ソクラテスは、「教える先生」というより、「質問する人」として知られています。本を書かず、街で出会った人に声をかけて、問いかけを重ねていたと伝えられています。たとえば、「転職したい」と言う人には、「転職したら、何が変わると思う?」「いま、いちばんつらいのは、どの部分?」と聞く。そうやって、相手が自分の力で気づくことを、大切にしました。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、要するに、答えは外からもらうものではなく、質問に答えているうちに、自分の中から出てくることがある、ということです。
ソクラテスの考え方を借りると、人に話して整理されるのは、相手が答えをくれたからではなく、質問が、自分の考えを取り出してくれたからだといえます。
話せば必ず答えが出るわけではない
ただ、話せば必ず答えが出るわけではありません。感情が強すぎると、かえって混乱することもあります。専門的な知識が必要な問題は、詳しい人に相談したほうがいい場合もあります。
話しても整理されない日は、「今日はそういう日だ」と考えて大丈夫です。話す相手も大切です。否定ばかりする人より、ゆっくり聞いてくれる人のほうが、考えが出てきやすくなります。
悩みと、うまくつきあう方法
方法は一つではありません。合いそうなものを選んでみてください。
- 誰かに話してみる。 解決してもらうのではなく、自分の考えを声に出します。相手は、うなずいて聞いてくれるだけで十分です。
- 質問だけしてもらう。 「どう思う?」ではなく、「何が嫌なの?」「転職して、いちばんほっとしそうなのは何?」と聞いてもらいます。
- 書き出す。 人に話せないことは、スマホのメモに書くだけでもいいのです。書いた言葉を読み返すと、自分に質問してもらっているような感覚になります。
- 重要でなければ、今すぐ答えを出さないと決める。 一晩置いても困らないことは、急いで結論を作らなくていいのです。
「どうすればいい?」と聞く前に、自分の口から出てきた言葉を、少し聞いてみる。
探していた答えの入り口は、案外、その言葉の中にあります。答えは、誰かにもらうだけでなく、話しているうちに、自分で見つかることもあるのです。
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