仕事で新しい企画を考えた。「これは絶対にいける」と思って、資料を作り始める。
そこへ、同僚から一言。
「この部分、うまくいかない可能性もあるんじゃない?」
少しモヤッとして、「いや、ここはこういう理由があるから大丈夫」と、反論したくなる。
もちろん、自分が正しいこともあります。でも、ふと気づくことがあります。自分の考えを守るために、都合のいい情報ばかり集めていないか。
なぜ、「自分が正しい」と思ったあとほど、間違いを探すのが難しくなるのでしょうか。
味方の情報だけ集めると、何でも正しく見える
「この方法なら、仕事がうまくいく」と考えたとします。うまくいった例を一つ見つけて、「やっぱり正しかった」と思う。もう一つ見つけて、「間違いない」と思う。
でも、たまたま条件がよかっただけかもしれません。別の場面では、失敗するかもしれません。うまくいかなかった例は、「あのときは特別だった」と、つい片づけてしまいます。
人間関係でも同じです。「この人は、自分のことを嫌っている」と思うと、返信が遅かったことや、反応が薄かったことばかりが目に入ります。親しげに話してくれた日のことは、「たまたまだろう」と、すぐに忘れてしまいます。
情報を集めるほど、最初の考えは、どんどん確かなものに見えてきます。そして、反論されると、考えだけでなく、自分まで否定されたような気持ちになります。反論したくなるのは、そのせいでもあります。
白い白鳥を何羽見ても、証明にはならない
「すべての白鳥は白い」という文があります。この文は、白い白鳥を何千羽見つけても、正しいと証明できません。まだ見ていない一羽が、黒いかもしれないからです。
でも、黒い白鳥を一羽でも見つければ、この文は間違いだと分かります。
この白鳥の話から、科学の考え方を整理した哲学者がいます。20世紀のカール・ポパーです。
ポパーは、「たくさん当てはまったから、完全に正しい」とは考えませんでした。大切なのは、「もし間違っているなら、こういうことが起きるはず」と言える形になっていること。そして、実際に、その間違いを探してみることです。これを「反証できる」と呼びます。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、要するに、自分の考えの味方になる情報だけでなく、「もし間違っているなら、何が起きるか」も探してみよう、ということです。
ポパーの考え方を借りると、日常の考えも同じです。「この仕事は自分に向いていない」と思ったら、そう思える出来事だけでなく、「向いているかも」と思える出来事も探してみます。たとえば、先月お客さんに「分かりやすい」と言われた、といった出来事です。先ほどの企画なら、「うまくいかない可能性」を言ってくれた同僚の一言は、間違いを探す手伝いをしてくれた、とも読めます。
全部を疑う必要は、ない
ただし、「自分を疑い続けなさい」という話ではありません。何もかも疑うと、今度は動けなくなります。ポパーが考えたのは、本来は科学の理論の話で、ここでは日常に借りています。
また、考えを変えることは、負けではありません。「最初から間違っていた」という意味でもありません。最初の判断をして、あとから新しい情報が入った。だから考えを修正した。それだけです。考えを変えられる人は、頼りなく見えるどころか、新しい情報を受け入れられる人です。
自分の考えと、うまくつきあう方法
方法は一つではありません。合いそうなものを選んでみてください。
- 反対側から考える。 「この考えが間違っているとしたら、何が起きている?」と考えてみます。たとえば企画なら、「通ったとして、どこでつまずきそうか」を3つ書き出します。
- 見落としを聞く。 「自分が見ていない情報はないか」を、人に聞いてみます。信頼できる同僚に、「穴がありそうな所を、一つだけ教えて」と頼んでみるのも一つです。
- 考えを変える条件を決めておく。 たとえば企画なら、「試しに出して、反応が3割より少なかったら、直す」と先に決めます。何が起きても「正しい」なら、確かめようがないからです。
- 重要でなければ、確かめないと決める。 今日のランチの好みのような小さなことまで、疑わなくていいのです。
考えが固くなりすぎないように、ときどき自分に聞いてみてください。
もし違うとしたら、何を見れば分かるでしょうか。
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