友達と映画を見た帰り道。自分は、主人公が最後に選んだ決断に感動している。ところが、隣の友達は「ちょっと展開が遅かったね」と言う。
同じ映画を見たはずなのに、感想がまるで違う。帰り道の会話が、少しかみ合わなくなる。そんな経験は、ないでしょうか。
- 「あのシーンが一番よかったのに」
- 「あそこは退屈だったでしょ」
映画に限りません。同じ会議に出ても、「いい話し合いだった」と思う人と、「時間の無駄だった」と思う人がいます。
なぜ、同じものを見ているのに、こんなに受け取り方が違うのでしょうか。
注目しているところが、違っている
自分は、主人公の気持ちを見ていた。友達は、展開のテンポや、映像の美しさを見ていた。注目するところが違えば、同じ作品でも、印象は変わります。
経験も関係します。似た経験をした人は、何気ないセリフに、強く心を動かされるかもしれません。そうした経験のない人には、ただのセリフに聞こえることもあります。その日の気分や、疲れ具合も関係します。仕事で疲れた日に見た映画は、テンポが遅く感じられやすいものです。
会議でも、同じです。進行を気にしていた人は、「脱線が多かった」と感じます。新しいアイデアを探していた人は、「いい刺激があった」と感じます。
私たちは、目の前のものを、そのまま受け取っているわけではないのです。
人は、自分の立つ場所から見ている
「人はそれぞれ、自分の立つ場所から世界を見ている」。そう考えた哲学者がいます。20世紀のスペインの哲学者、オルテガ・イ・ガセットです。
たとえば、同じ山でも、ふもとから見る人と、反対側の町から見る人とでは、形が違って見えます。どちらも、同じ山を見ています。でも、立つ場所が違うので、見える形が違うのです。
オルテガは、その人の立場や、置かれた状況が、見え方に関わると考えました。そして、どの見え方も、世界の一部を、確かに映している、と見たのです。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、要するに、自分に見えているものは、世界の一部であって、世界のすべてとは限らない、ということです。自分が見ている景色は、本物です。ただ、それが全部ではない、と思えると、相手の景色にも、気持ちを向けやすくなります。
オルテガの考え方を借りると、映画の感想が違うのは、どちらかが間違っているからではなく、二人が立っている場所が、違うからだといえます。友達に見えていたのは、映像の美しさや、物語の流れでした。自分には見えていなかった「よさ」が、そこにあるのかもしれません。
どんな意見でも正しい、というわけではない
ただ、ここはオルテガの考え方を、日常に借りた話です。「人それぞれだから、何でも正しい」という意味ではありません。
事実は、確かめる必要があります。映画の登場人物の名前や、会議で決まった内容を、間違えて覚えていたなら、それは直したほうがいいことです。また、相手の意見を、無条件に受け入れなければいけない、ということでもありません。
感想の違いと、事実の間違いは、別のことです。事実を確かめるのは、感想の違いを責めるためではなく、同じ土台に立つために必要なのです。
違う見方と、うまくつきあう方法
方法は一つではありません。合いそうなものを選んでみてください。
- 相手が注目したところを聞く。 「どのシーンがよかった?」と聞くと、自分が気づかなかった部分が見えてきます。「なんでそう思ったの?」と、責めない声で聞くのが、コツです。
- 自分の経験を振り返る。 なぜ自分は、この場面に感動したのか。過去の経験や、大切にしていることが、影響しているかもしれません。
- 事実と感じ方を分ける。 「主人公が旅立った」は事実。「逃げたのだ」は、受け取り方です。会議なら、「1時間かかった」は事実で、「長かった」は感じ方です。
- 重要でなければ、意見をそろえないと決める。 映画の感想が違っても、結論を一つにしなくていいのです。単に好みが違うだけなら、「そういう見方もあるんだ」で終えて大丈夫です。
自分と違う感想を聞いたとき、「相手は分かっていない」と思う前に、「この人には、何が見えていたんだろう」と考えてみる。
意見の違いは、相手を否定する理由ではなく、自分の知らなかった世界を知るきっかけになります。違う感想は、同じ映画を、もう一度、別の角度から見せてくれます。
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