趣味でギターを始めた。最初は、好きな曲を少し弾けるだけで楽しかった。
ところが、動画サイトで上手な人の演奏を見てから、気持ちが変わってきた。
- もっと練習しないと
- このくらい弾けないと恥ずかしい
- せっかくなら、上達しなきゃ
楽しくて始めたはずなのに、練習できなかった日は罪悪感が残る。最初の、ただ楽しかった気持ちが、どこか遠くへ行ってしまったように感じます。
ギターに限りません。絵、ランニング、料理。好きで始めたことなのに、いつの間にか成果が気になることがあります。
なぜ、好きなことなのに、「上達しなきゃ」と思うと苦しくなるのでしょうか。
「やっている時間」より「できたこと」が気になる
上達したくなるのは、自然なことです。昨日よりうまくできたら嬉しいし、達成感もあります。
でも、上達を意識しすぎると、楽しむために始めたことが、「成果を出すための作業」に変わってしまうことがあります。
- 絵を描いているのに、出来ばえばかり気になる
- 走っているのに、タイムが伸びないと楽しめない
- 料理をしているのに、見栄えや評価が気になる
こうなると、楽しさが、「できたかどうか」の点数に変わってしまいます。「やっている時間」そのものが、楽しめなくなるのです。上手な人の動画を見て、自分と比べるほど、その気持ちは強くなります。上手な人の演奏は、何年も練習を重ねた結果です。そこだけを見て、始めたばかりの自分と比べると、差ばかりが目につきます。
「役に立たなくても楽しい」を大事にした人
子どもが砂場で遊ぶとき、「上手な山を作らなきゃ」と思っているでしょうか。たいていは、作ること自体が楽しくて、夢中になっています。大人でも、休みの日に、目的もなく散歩したり、ただギターをぽろぽろ弾いたりする時間が、心地いいことがあります。
何かの役に立つかどうかを気にせず、やること自体を楽しむ状態。これを「遊び」と呼んで、人間らしさの大事な部分だと考えた思想家がいます。18世紀のドイツのシラーです。
シラーは、遊びを、ただの暇つぶしとは考えませんでした。仕事や義務から離れて、自分の心を自由に動かせる時間こそ、人が人らしくいられる時間だ、と見たのです。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、要するに、「うまくなるため」ではなく、「やっていて楽しいから」やる時間を、大事にしていい、ということです。
シラーの考え方を借りると、「上達しなきゃ」で苦しくなるのは、遊びだったものが、いつの間にか、義務や評価の時間に変わってしまったからだ、といえます。
上達を目指すことが、悪いわけではない
ただ、ここはシラーの考え方を、日常に借りた話です。上達を目指すことが悪いわけではありません。
目標があるから夢中になれる人もいますし、壁を越えること自体が楽しい人もいます。上達したときの喜びも、本物の楽しさの一つです。仲間と一緒に練習して、上達をみんなで楽しむ形もあります。
大切なのは、「上達を楽しんでいる」のか、「上達しなければ楽しんではいけない」と思っているのか、という違いです。前者なら、そのまま進んで大丈夫です。後者に気づいたときだけ、少し立ち止まってみます。
好きなことと、うまくつきあう方法
方法は一つではありません。合いそうなものを選んでみてください。
- 上達の日と、楽しむ日を分ける。 今日は練習、今日は好きな曲を弾くだけ、と決めます。絵なら、完成度を気にしない落書きの日があってもいいのです。
- 数字や評価を休む。 タイム、閲覧数、作品の数を気にしない日を作ります。人に見せないものを作るのも、おすすめです。「いいね」の数を見ない日を、決めておくのも一つです。
- 始めた理由を思い出す。 「なぜこれが好きだったのか」を振り返ってみます。最初に楽しかった場面を、一つ思い浮かべるだけでも十分です。「あの曲が、初めて通して弾けた日」のような、小さな場面でかまいません。
- 重要でなければ、上達を追わないと決める。 趣味だからといって、何でも成長につなげなくていいのです。
今日は何ができるようになったかではなく、何をしている時間が楽しかったかを思い出してみる。
その時間を残しておくことも、趣味を長く楽しむための、大切な方法の一つです。上達は、楽しんでいるうちに、あとからついてくることもあります。
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