なぜ、便利な道具を使うほど、道具がないと不安になるのか?

本日のモヤモヤ

スマホを家に忘れた日。急に家族に連絡しようとして、気づく。電話番号を、一つも覚えていない。

漢字も同じです。読めるのに、書こうとすると出てこない。

もちろん、スマホは便利です。調べものも連絡も、一瞬で済みます。

でも、ふと思う。便利にするために使い始めたのに、いつの間にか、道具がないと動けなくなっていないか。

できることは広がったのに、道具がないと困ることも増えている。

なぜ、便利な道具を使うほど、道具がないと不安になるのでしょうか。

道具が増えて、できることは広がった

道具に頼ること自体は、悪いことではありません。人は昔から、メガネや電卓、地図など、さまざまな道具を使って、できることを増やしてきました。

便利な道具のおかげで、できることは確かに増えました。

  • 翻訳アプリで、知らない言語の文章が読める
  • 予約サービスで、電話をかけなくても予定が決まる
  • 検索で、分からないことがすぐ調べられる

ところが、便利さに慣れると、それが使えないだけで困ります。サービスが止まると、別の方法が思いつかない。そんなことも起きます。手書きで文字を書く機会が減って、漢字が出てこなくなるのも、同じことです。使わない力は、少しずつ使いにくくなります。不安になるのは、道具が使えなくなったことより、「代わりの方法が思いつかない自分」に気づいたときかもしれません。

道具に合わせて動き始めるとき

道具や仕組みが大きくなりすぎると、人のほうが仕組みに合わせて動くようになる。この危うさを指摘した思想家がいます。20世紀のイヴァン・イリイチです。イリイチは、道具が、人を自由にする方向にも、人を縛る方向にも働くと考えました。

たとえば、地図アプリ。行き先を決めるのは自分で、道を探す手間だけをアプリに任せているうちは、自分の目的のために、道具を使えています。

一方で、おすすめされたものしか選べない。通知が来るたびに手を止める。道具が使えないと、何も決められない。こうなると、道具のほうが、自分の動きを決めています。アプリが出した道以外は、考えられなくなる。そんな状態も、これに近いかもしれません。

少し難しく聞こえるかもしれませんが、要するに、道具を「使うかどうか」ではなく、「使うことで、自分のできることが広がっているか」を見る、ということです。「便利だから使う」と「使わないと不安だから使う」は、見た目は同じでも、中身が違います。

イリイチの考え方を借りると、不安の正体は「道具に頼っていること」ではなく、「道具がないと、自分で選べなくなっていること」かもしれません。

便利さを減らせば、自由になるわけではない

ただし、イリイチが考えたのは、本来は学校や病院、交通のような、社会の仕組みの話です。ここでは、その考え方を日常に借りています。

便利さを減らせば自由になる、という話でもありません。支援技術があって初めて動ける人もいます。疲れた日に、家事をサービスに任せるのも、生活を守る立派な選択です。道具が使えないときに困るのは、それだけ、生活の中で役に立っている証拠でもあります。

便利さと、うまくつきあう方法

方法は一つではありません。合いそうなものを選んでみてください。

  • 何を楽にしたいのかを決める。 時間を節約したいのか、失敗を減らしたいのか。目的が分かれば、機能を増やしすぎずに済みます。
  • 自分でできる部分を残す。 大事な連絡先は1つだけ覚えておく。使えない日の別の方法を、1つ考えておく。たとえば、紙のメモに、よく使う電話番号を書いておく。月に一度、スマホを持たずに、近所を歩いてみるのもいいでしょう。
  • おすすめを、そのまま正解にしない。 提案を参考にしながら、自分の希望に合っているか、確かめます。たとえば、動画のおすすめを見る前に、「今日は何が見たいか」を一つ決めてみます。
  • 重要でなければ、いちばん効率のいい方法を探さないと決める。 少し遠回りでも困らないなら、毎回、最短を選ばなくていいのです。

道具は、生活を助けるためにあります。道具に頼りすぎていないかを、毎日気にしなくても大丈夫です。気になったときに、一度だけ見直せば十分です。

「これを使うことで、自分の生活は、どう変わるのか」。ときどき、そう考えてみませんか。

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