グループで仕事を分担する。「全員に同じ数ずつ割り振ろう」と決めて、3人に2つずつ渡した。
ところが、終わってみると、一人だけ明らかに大変そうだった。仕事の難しさが違ったのです。
「同じ数なのに、なぜ自分だけこんなに大変なんだろう」
そう感じるのも、無理はありません。ただ、「ちゃんと同じにしたのに」と返されそうで、言い出しにくいものです。数は同じだったのに、なぜ、不公平に感じてしまうのでしょうか。
「同じ扱い」なら、公平なのか?
たとえば、3人の状況が、こんなに違っていたとします。
- 新人のAさんは、慣れない作業に、ほかの人の倍の時間がかかる
- Bさんは、子どもを迎えに行くため、夕方には席を立たなければならない
- Cさんは、同じ仕事を、いつも通りにこなせる
同じ「2つ」でも、感じる重さは、かなり違います。
「数を同じにする」のは、分かりやすいやり方です。誰からも文句が出ないように見えます。でも、見えているのは「数」だけで、「大変さ」までは見えていません。「数」は誰にでも見えますが、「大変さ」は、本人にしか分からないことが多いものです。だから、不公平だと感じていても、言い出せない人が出てきます。
かといって、事情を考えすぎると、今度は別の人が「不公平だ」と感じることもあります。公平さを決めるのは、簡単ではありません。「同じにする」ことと、「納得できる」ことは、似ているようで、別のことなのです。
自分の立場が分からないとしたら
「自分がどの立場になるか分からないとしたら、どんなルールを選ぶか」。この問いから公平さを考えた哲学者がいます。20世紀のアメリカの哲学者、ジョン・ロールズです。
たとえば、ケーキを切り分けるとします。切った人が、最後に残った一切れを取る決まりだったら、どうでしょう。どれが自分の分になるか分からないので、なるべく同じ大きさに切ろうとします。このとき人は、「どの一切れになっても困らないか」を、自然に考え始めます。
自分が有利だと決まっていれば、自分に都合のいいルールを選びたくなります。でも、有利か不利か分からなければ、どちらになっても困らないルールを選びたくなる。ロールズは、この状態を「無知のヴェール」という言葉で説明しました。自分の立場が、ヴェールで隠されているような状態のことです。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、要するに、「自分が不利な側になっても、その決め方で納得できるか」と考えてみる、ということです。
ロールズの考え方を借りると、仕事の分担も、数をそろえるだけでなく、難しさや負担まで見たくなります。たとえば、いちばん手間のかかる仕事を担当する人は、受け持つ仕事の数を、ほかの人より少なくする。そう決めておけば、誰が担当になっても、納得しやすくなります。
立場を入れ替えれば、解決するわけではない
ただし、ロールズが考えたのは、本来は社会全体のルールの話です。ここでは、その考え方を日常に借りています。
立場を入れ替えれば、必ず全員が納得する、というわけでもありません。経験を積ませたいのか、負担を均等にしたいのかで、答えは変わります。同じ仕事でも、「やりがいがある」と感じる人もいれば、「負担だ」と感じる人もいます。
公平さと、うまくつきあう方法
方法は一つではありません。合いそうなものを選んでみてください。
- 立場を入れ替えて考える。 自分が不利な側でも、その決め方を受け入れられるか、考えてみます。「もし自分がAさんだったら、この分け方で引き受けられるか」と、聞いてみるのです。
- 数だけでなく、負担も見る。 同じ数でも、難しさや時間が違わないか、確認します。作業にかかりそうな時間を、先に聞いておくのも一つです。
- 先に基準を決める。 誰が担当するかを決める前に、何を公平とするのかを話し合います。相手の事情も、そこで聞いておきます。たとえば、「難しい仕事は、2つ分として数える」と決めておく方法があります。
- 重要でなければ、細かな差を追わないと決める。 小さな違いまでそろえようとすると、かえって話がこじれます。
「全員同じだから公平」とも、「事情を考えたから公平」とも、決めつけない。
意見が分かれたときは、「自分がどの立場でも納得できるか」を、一度考えてみる。「自分が損をしたから不公平だ」という判断から、一歩離れられます。公平は、一度決めたら終わり、ではありません。やってみて、ずれていたら、また話し合えばいいのです。
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