なぜ昔の写真を見ると、当時の自分が他人のように感じるのか?

本日のモヤモヤ

スマートフォンの写真アプリを見返していて、

「このときの自分、こんな顔をしていたんだ」

「この出来事は覚えているのに、当時の気持ちが思い出せない」

と感じたことはありませんか?

写真には、過去の自分が写っています。けれど見返している現在の自分からすると、その姿はどこか遠い。

これは、記憶が薄れたからだけではありません。人は時間の中で、自分自身を少しずつ作り替えながら生きているからです。

写真は「過去」を残すが、「時間」までは残さない

写真は、その瞬間の姿を保存します。服装、表情、場所、隣にいた人。そこには当時の情報がたくさん残っています。

しかし、写真に写らないものもあります。

  • そのとき何を不安に思っていたか
  • 何を期待していたか
  • その場でどんな時間を過ごしたか
  • 後から何を後悔したか

写真は一瞬を切り取れますが、そこに至るまでの流れや、その後の変化までは写せません。

そのため、写真を見た私たちは、過去の自分を「その瞬間の姿」として見ることになります。けれど実際の自分は、その一瞬だけで成り立っていたわけではありません。

ベルクソンが考えた「生きられた時間」

この感覚を言い当てたのが、フランスの哲学者アンリ・ベルクソンです。彼は時間を、時計のように均等に流れるものとしてだけ捉えませんでした。

時計では、1分はいつも同じ長さです。しかし私たちの経験では、楽しい1時間は短く感じられ、退屈な10分は長く感じられます。

ベルクソンは、こうした伸びたり縮んだりする時間の感覚を「持続(デュレ)」と呼びました。時計の数字では測れない、心の中で感じる時間の流れのことです。

そしてベルクソンは、過去は消えてなくなるのではなく、記憶として現在の中に重なりながら残っていると考えました。今の自分は、過去の自分から完全に切り離された存在ではありません。過去の経験、失敗、習慣、考え方が積み重なって、現在の自分をつくっています。

なぜ過去の自分が「他人」に見えるのか

では、過去の自分が他人のように見えるのはなぜでしょうか。

それは、現在の自分が過去をただ保存しているのではなく、今の自分の目で、もう一度見直しているからです。

数年前の自分が悩んでいたことを見て、「どうしてあんなことで悩んでいたんだろう」と思うことがあります。反対に、当時は軽く考えていた出来事が、今になって大きな意味を持つこともあります。

出来事そのものは変わっていません。変わったのは、それを見る自分の位置です。

過去の自分は、現在の自分にとって「前の自分」であり、同時に「今の自分をつくった人」でもあります。この二重性が、懐かしさと距離感を同時に生み出します。

自分は、同じ人なのか

ここで、少し不思議な問いが生まれます。過去の自分と現在の自分は、同じ人なのでしょうか。

名前も身体も連続しています。けれど、考え方も価値観も変わっています。過去の自分なら選ばなかったものを、今の自分は選ぶこともあります。それでも私たちは、写真の中の人物を「自分だった」と認めます。

少し分かりにくい言い方になりますが、要するに、こういうことです。川の水は、昨日と今日とでまったく同じ水ではありません。それでも私たちは、それを「同じ川」と呼びます。 自分もそれと同じで、中身は少しずつ入れ替わっていても、途切れずに流れ続けているからこそ、「同じ自分」なのかもしれません。

過去の自分が少し他人に見えるのは、別人になったからではなく、変わり続けてきた自分を、現在の自分が見つめ直しているからです。

昔の写真を見ることは、思い出に浸るだけではありません。そこには、「自分はずっと同じだったわけではない」という事実が写っています。以前の自分とは違う考え方ができるようになった。昔は見えなかったことが、今は見えるようになった。そうした変化を確認することは、現在の自分を理解する手がかりにもなります。過去の自分を、未熟だったと片づける必要はありません。その時点では、その時点なりの世界を生きていたからです。

次に昔の写真を見返したときは、こう考えてみてください。

今の私は、過去の自分から何を受け取り、何を変えてきたのだろう?

tetsubiteとは?

隙間時間に、ちょっと賢く。「そうなんだ」を。

電車の行き帰り、昼休み、寝る前。
毎日のちょっとした隙間時間に、気軽に読める「へぇ」をお届けするブログです。

「なぜ人は○○するんだろう?」
「そういえば、これってどういうこと?」

そんな身近な疑問や、意外と知らない雑学を入り口に、哲学や心理学、歴史など、少し深く考えると面白い話をご紹介します。

難しい本を読むほどではないけれど、
「そうなんだ!」と、ひとつ新しいことを知りたい。
そんなあなたの隙間時間に、ちょっとした知識と「なるほど」を。

読み終わったあと、誰かにちょっと話したくなる。
そんな記事をお届けします。

コメント

タイトルとURLをコピーしました