朝、家を出るときに空を見る。昨日は晴れていた。一昨日も晴れていた。だから今日も、たぶん晴れるだろうと思う。
仕事でも、同じことをしています。
- あの人はいつも返信が早いから、今回もすぐ返ってくるだろう
- この店はいつも混んでいるから、今日も並ぶだろう
- このやり方で前にうまくいったから、今回もうまくいくはず
私たちは、過去の経験から未来を予想しながら生活しています。でも、よく考えると不思議です。
なぜ、「これまでそうだった」から、「これからもそうだ」と思ってしまうのでしょうか。
「今まで」は、「これから」を約束しない
毎朝乗る電車が、これまで一度も大きく遅れたことがないとします。だから明日も、いつも通りの時間に駅へ行けば大丈夫だと思う。とても自然な判断です。
でも、「今まで遅れなかった」という事実は、明日の電車について、何も約束してくれません。事故があるかもしれないし、大雨で遅れるかもしれません。
「今まで」と「これから」の間には、少しだけ隙間があるのです。
この「当たり前」を疑った哲学者
この「当たり前」を疑った人がいます。18世紀のスコットランドの哲学者、デイヴィッド・ヒュームです。
火に触れて、何度も熱かったとします。だから「次も熱いだろう」と考える。でもヒュームは、「今まで熱かった」からといって、「次も必ず熱い」と、理屈だけで言い切ることはできない、と指摘しました。
では、なぜ私たちは先を予想できるのか。ヒュームは、同じことを何度も経験するうちに、心に「習慣」ができるからだと考えました。同じ場面を何度も見ると、「次もそうなる」と、心が先回りするようになるのです。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、要するに、「いつもこうだったから、今回もこうだろう」は、確かな答えではなく、経験から身についた予想だ、ということです。
「慣れ」は便利で、少し危うい
この仕組みのおかげで、私たちは毎日をスムーズに過ごせます。いちいち「このドアを開けたら外に出られるか」と疑っていたら、生活できません。
一方で、同じ仕組みが、思い込みも作ります。
- この仕事は自分には向いていない
- この人とは絶対に合わない
- どうせ今回も失敗する
これらも、過去の経験から作った予想かもしれません。過去に何度かそうだったとしても、未来まで決まったわけではありません。
全部を疑う必要は、ない
もちろん、毎朝「電車が来ないかもしれない」と怯える必要はありません。ヒュームの問いは、「経験を信じるな」という意味ではないからです。経験は、未来を予想するための大切な材料です。
疑うのは、「ここは大事だ」と思う場面だけで十分です。
予想と、うまくつきあう方法
方法は一つではありません。合いそうなものを選んでみてください。
- 事実と予想を分ける。 「今まで3回、同じことが起きた」は事実。「だから次も起きるだろう」は予想です。
- 予想に、「たぶん」をつける。 「失敗する」ではなく、「たぶん失敗する気がする」と言い換えると、少しやわらかく扱えます。
- 大きな決断のときだけ、確かめる。 転職や引っ越しなど、人生に関わることは、「過去にそうだったから、今度も本当にそうか」と一度だけ立ち止まります。
- 重要でなければ、疑わないと決める。 電車が来ることや、蛇口から水が出ることまで、疑わなくて大丈夫です。「たぶんいつも通り」で流してかまいません。
「いつも通り」は、便利な予想です。ときどき「今回も本当にそうか」と問い直すと、まだ決まっていない未来に、少し余白が戻ります。
あなたがいま「どうせまた同じ」と思っていることは、事実でしょうか。それとも、過去から作った予想でしょうか。
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