
人から褒められると、もちろんうれしい。
- 「仕事が丁寧ですね」
- 「話し方が分かりやすいですね」
- 「センスがいいですね」
そんな言葉をもらうと、気分が明るくなります。
ところが、褒められた直後に、こんな不安が出てくることがあります。
- 「本当にそう思っているのかな」
- 「次も同じようにできなかったらどうしよう」
- 「期待に応え続けないといけないのでは?」
評価されることは、なぜ安心だけで終わらないのでしょうか。
褒め言葉は、自分を映す鏡になる
自分の長所は、自分では意外と見えにくいものです。他人から褒められて、こんなふうに気づくことがあります。
- 「自分には、こういう面があるのか」
- 「ここを見てもらえていたのか」
褒め言葉は、ただ気分をよくするものではありません。自分の姿を映す、鏡のようなものです。
ただ、鏡には少し怖いところもあります。映った姿を、そのまま「これが本当の自分だ」と思い込みたくなるからです。
褒められると、「その自分を保たなきゃ」と思う
一度、こんなふうに見られたとします。
- 「仕事が速い人」
- 「落ち着いている人」
- 「面白い人」
すると、そのイメージを壊したくなくなります。次に同じ相手と会ったとき、「前回の評価を裏切りたくない」という気持ちが生まれます。
褒められる前は、ただ行動していただけかもしれません。けれど、褒められたあとは、行動だけでなく、評価された自分を演じることまで求められるように感じます。だから、褒め言葉はうれしいのに、同時にプレッシャーにもなります。
一人で歌うときと、人前で歌うときの違い
誰もいない部屋で、好きな歌を歌う。上手いか下手かは気になりません。ただ気持ちよくて、歌っています。
カラオケで友人の前に立つと、少し違います。「上手いと思われたい」「下手だと思われたくない」という気持ちが、混ざってきます。
同じ「自分を大切にする気持ち」でも、この二つは別物です。そう考えたのが、18世紀のフランスの思想家、ジャン=ジャック・ルソーです。
ルソーは、自分を大切にする気持ちを、大きく二つに分けました。
- 素朴な気持ち。 自分が自分として、ふつうに生きていたいという気持ちです。たとえるなら、誰もいない部屋で歌うときの、気持ちよさに近いものです。
- 他人と比べる中で生まれる気持ち。 「自分は人より優れているか」「どのくらい認められているか」「他人からどう見られているか」を気にする心です。ルソーは、これを「アムール・プロプル」と呼びました。名前は覚えなくて大丈夫です。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、要するに、褒められてうれしいのは、他人の目の中で、自分の価値が上がったと感じるからです。でも同時に、その価値が他人の判断に支えられていると、不安定にもなります。誰かに認められた自分は、別の誰かに否定されるかもしれないからです。
褒め言葉に頼りすぎると、自分の基準が見えなくなる
褒められること自体が悪いわけではありません。問題は、褒められたときだけ、自分に価値があると感じてしまうことです。
その状態では、評価がないと不安になります。
- 今日は誰にも褒められなかった
- 以前より反応が薄い
- 別の人のほうが評価されている
そんな出来事に、必要以上に揺さぶられてしまいます。
他人の評価は、自分を知るきっかけにはなります。でも、それだけを基準にすると、自分の価値が、他人の気分で上がったり下がったりしてしまいます。
褒められた自分と、そうでない自分は、別人ではない
褒められたときに不安になるのは、評価された自分を失うのが怖いからです。でも、褒め言葉は、あなたのすべてを認めたという意味ではありません。
「丁寧ですね」と言われたからといって、毎回完璧である必要はありません。「話が面白い」と言われたからといって、いつも楽しませ続ける必要もありません。その言葉は、ある場面で見えた一面を表しているだけです。
人は、評価された部分だけでできているわけではありません。調子の悪い日も、失敗する日も、うまく話せない日も含めて、自分です。
褒められたあとの不安との、つきあい方
方法は一つではありません。合いそうなものを選んでみてください。
- 「ありがとう」で受け取って、終わりにする。 「本当にそう思っているのかな」と考え込まず、言葉だけを受け取ります。
- 褒められた「行動」に戻る。 「丁寧ですね」と言われたら、自分が何を丁寧にやったのかを思い出します。評価ではなく、自分の行動に目を戻すと、気持ちが落ち着きます。
- 評価されない場所を、持っておく。 誰にも見せない趣味や日記など、褒められなくても続けたいことを、一つ持っておきます。
- 重要でなければ、期待に応え続けないと決める。 毎回同じ評価を守る必要はありません。本当に大切な相手や場面だけにしぼって、あとは「今日は普通でいい」と決めてかまいません。
評価は、自分の価値を作るものではなく、自分の一部を照らすものです。「認められたから価値がある」のではなく、「価値のある行動が、たまたま認められた」と考えてみてください。
次に褒められたとき、うれしさのあとに不安が出てきたら、こう考えてみてください。
私は褒められた自分を守ろうとしているのか、それとも、褒められなくても続けたいものを持っているのか?
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