「ちゃんと聞いてるよ」
そう思っているのに、相手から「話、聞いてた?」と言われることがあります。
スマートフォンを見ていたわけではありません。相手のほうを向いて、相づちも打っていました。それなのに、なぜか伝わっていない。
なぜ、聞いているつもりなのに、「ちゃんと聞けていない」と言われてしまうのでしょうか。
聞きながら、次の返事を考えていないか
友人が「最近、仕事がうまくいかなくて……」と話し始めたとします。すると、頭の中でこんな返事が浮かびます。
- 「それなら転職したほうがいいんじゃない?」
- 「自分も似た経験があって……」
悪気はありません。むしろ、ちゃんと答えようとしています。でもその瞬間、意識は相手の話ではなく、「自分がどう返すか」に移っています。
答えを考えている間は、相手の表情や声の調子も、あまり見えていません。
「わかった」と思った瞬間に、聞くのをやめている
人の話を聞いていると、つい意味を早く決めたくなります。
- 「つまり、仕事が嫌なんだな」
- 「結局、転職したいんでしょ」
でも、本当にそうでしょうか。「仕事が嫌」ではなく、「自分だけ取り残されている気がする」のかもしれません。本人にも、まだ整理できていない気持ちがあります。
早く答えを出すほど、言葉からこぼれていくものがあります。相手はアドバイスがほしいとは限りません。ただ、自分の言葉をそのまま受け取ってほしいだけのこともあります。
答えを急がずに、相手を受け取る「注意」
答えを急がず、まず相手をそのまま受け取る。この姿勢を「注意」と呼んで、大切にした哲学者がいます。20世紀のフランスの哲学者、シモーヌ・ヴェイユです。
ヴェイユの言う「注意」は、ただ集中することではありません。自分の考えや判断をいったん脇に置いて、目の前の人を、そのまま受け取ろうとすることです。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、要するに、「わかったつもりになる前に、もう少し相手を見てみる」ということです。「聞く」ことと、相手に「注意を向ける」ことは、少し違うのです。
ヴェイユの考え方を借りるなら、「仕事がうまくいかなくて」と言われたとき、すぐに答えず、「そのとき、どんな気持ちだった?」と聞いてみます。すると、「実は、後輩に追い越された気がして」と、最初の言葉の奥にあった話が出てくることがあります。
いつも「注意」を向けられるわけではない
もちろん、アドバイスが悪いわけではありません。相手から「どうしたらいい?」と聞かれたときは、答えて大丈夫です。
また、すべての会話で、じっくり向き合う必要もありません。疲れている日や、余裕のない日は、聞けなくて当たり前です。
聞くときの、いくつかの方法
方法は一つではありません。合いそうなものを選んでみてください。
- すぐに答えず、少し待つ。 「どういうときに、いちばん強く感じる?」と、もう少し話してもらいます。相手の言葉が途切れても、沈黙をすぐに埋めません。
- 聞いた言葉を、そのまま返す。 「取り残されている気がするんだね」と、相手の言葉を繰り返します。
- 聞くと決めた場面だけ、意識を変える。 「次に何を言おう」ではなく、「この人はいま何を話しているんだろう」と考えてみます。
- 余裕がなければ、正直に言うと決める。 「今日はちゃんと聞ける余裕がない。明日、聞かせて」と伝えてかまいません。
自分の答えを急いで差し出さず、相手が自分の言葉を見つけるまで、少し待つ。その待つ時間が、相手をちゃんと見る時間になります。
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