夜、そろそろ寝たほうがいいと思いながら、スマホを開く。
「あと5分だけ」と動画を一本見て、気づけば30分以上たっている。
こんなことは、スマホに限りません。
- ダイエット中なのに、お菓子を食べる
- 勉強するつもりが、部屋の掃除を始める
- 早く終わらせたいのに、関係のないニュースを見てしまう
不思議なのは、何をしたほうがいいか、ちゃんと分かっていることです。
なぜ、分かっているのに、やってしまうのでしょうか。
「分かっている」と「できる」は、別のこと
明日が早いので、「今日は早く寝よう」と決めたとします。それでも、ベッドに入るとスマホに手がのびる。
このとき、「早く寝たほうがいい」という考えが消えたわけではありません。頭の中では、こう分かっています。
- もう寝たほうがいい
- 明日の朝、つらくなる
- 睡眠時間が減る
頭では、全部分かっている。それでも、目の前の動画のほうが気になる。
動画の楽しさは、今すぐ手に入ります。寝不足のつらさは、明日の朝にならないと来ません。近いものほど、大きく感じてしまうのです。
勉強するつもりが掃除を始めるときも、同じです。「勉強しなきゃ」は分かっています。でも、掃除のほうが始めやすくて、今すぐすっきりできます。
つまり、「正しいことを知っている」ことと、「その通りに動ける」ことは、別なのです。
2000年以上前から、人は同じことで悩んでいた
この「分かっているのにできない」状態を、2000年以上前に細かく観察した人がいます。古代ギリシャの哲学者、アリストテレスです。
アリストテレスは、頭では「やめたほうがいい」と分かっているのに、欲しい気持ちに引っ張られて動いてしまう状態を、「アクラシア」と呼びました。日本語では「意志の弱さ」などと訳されます。
たとえば、甘いものを控えようと決めた人が、目の前のケーキを食べてしまう。「食べないほうがいい」という判断より、「食べたい」という気持ちが勝ったわけです。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、要するに、人は「正しいと判断したこと」だけで動いているわけではない、ということです。「食べたい」「見たい」という気持ちも、行動を動かします。
アリストテレスの考え方を借りると、寝る前の動画も、知識が足りないから見てしまうのではありません。その瞬間、自分を動かしているのは「正しい判断」ではなく、「もう少し見たい」という気持ちなのです。
意志の弱さだけが、原因ではない
「自分は意志が弱いからだ」と片づけると、原因を全部、自分の性格のせいにしてしまいます。それでは、次に何を変えればいいのか分からなくなります。
実際には、疲れや睡眠不足、その日の気分なども重なっています。疲れて帰った日は、ふだん守れているルールも守れないことがあります。
ですから、できなかった自分を責めるより、「どんな条件のときに起きたか」を見るほうが役に立ちます。
「分かっているのにできない」と、うまくつきあう方法
方法は一つではありません。合いそうなものを選んでみてください。
- 誘惑が来る前に、距離をつくる。 寝る前は、スマホを手の届かない場所に置きます。充電も、ベッドから離れた場所でします。
- 「やめる」より、終わりを決める。 「動画を見ない」より、「この1本で終わり」「0時になったら閉じる」のほうが守りやすいことがあります。
- 行動を少し面倒にする。 お菓子を取りにくい場所に置く。SNSをホーム画面から外す。
- 重要でなければ、ルールにしないと決める。 たまの夜更かしまで「絶対にダメ」にすると、守れなかったときに苦しくなります。「週末だけは自由」と決めてしまうほうが、続きます。
気合いで勝とうとするより、気持ちが動きにくい仕組みをつくるほうが、うまくいきやすいのです。
「分かっているのに、できない」のは、自分がダメだからではありません。
人の中には、考える自分と、今すぐ欲しがる自分がいる。アリストテレスは、その少し厄介な人間らしさを、正直に見つめた人でした。
tetsubiteとは?
隙間時間に、ちょっと賢く。「そうなんだ」を。
電車の行き帰り、昼休み、寝る前。
毎日のちょっとした隙間時間に、気軽に読める「へぇ」をお届けするブログです。
「なぜ人は○○するんだろう?」
「そういえば、これってどういうこと?」
そんな身近な疑問や、意外と知らない雑学を入り口に、哲学や心理学、歴史など、少し深く考えると面白い話をご紹介します。
難しい本を読むほどではないけれど、
「そうなんだ!」と、ひとつ新しいことを知りたい。
そんなあなたの隙間時間に、ちょっとした知識と「なるほど」を。
読み終わったあと、誰かにちょっと話したくなる。
そんな記事をお届けします。


コメント